三和のカーボンニュートラルへ向けた取り組み


カーボンニュートラル

活動のはじめに

 カーボンニュートラル(Carbon Neutral)とは、地球の大気中の温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出と除去が釣り合っていることを指します。地球温暖化による気候変動は、皆様もおそらく日々感じられているのではないでしょうか。

 18世紀の後半、イギリスで起こった産業革命をきっかけに、徐々に気温が上昇し、2023年度における世界の平均気温は、その時と比べて+1.48℃に達していると言われています。この気温上昇の主な原因は、工業化の推進を始めとする産業活動の活発化による、二酸化炭素やメタン、フロンなどのGHGの大気中への排出です。このまま気温の上昇が続けば、生態系が歪み、生物が住みにくい環境になることでしょう。人々の暮らしを豊かに、便利にするはずの日々の活動が、逆に住みにくい環境をもたらしかねないという現実は、非常に皮肉なものです。

 一方、脱炭素社会の到来は、新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけともなり得ます。GHGを減らす活動の中で、環境価値という新たな付加価値が生まれつつあります。これに着目した事業展開を行うことは、企業の持続可能性を高め、イノベーションの創出といった恩恵をもたらすでしょう。

 地球温暖化に歯止めをかけるために、カーボンニュートラリティーを目指す活動のファーストステップは「見直すこと」と言えるでしょう。株式会社三和では、2023年より中小機構のハンズオン支援を利用し、カーボンニュートラルに向けたプロジェクトをスタートさせました。以下に、そのスタートアッププロジェクトの概要を紹介いたします。未来の世代のために、私たちができることを進めていきたいと切実に感じています。また、カーボンニュートラルへの取り組みは、弊社1社だけで実現できるものではなく、お客様・サプライヤーの皆様といったステークホルダーの皆様の協力が不可欠です。弊社はものづくりを担う企業として、カーボンニュートラリティーに向けて、持続可能な世界への一歩一歩の取り組みを進めてまいります。引き続きご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

株式会社 三和 代表取締役 西野 貴幸

SBT認証

SBTとは?

 SBTとは、Science Target Basedの略で、CDP・UNGC・WRI・WWFの4つの機関が共同で運営しているもので、WMBの取組の一つとして、実施企業の温室効果ガス排出削減目標のことを示しており、パリ協定に沿った科学的根拠に基づいた目標のことです。気候科学に基づいて、気温上昇を産業革命前に比べて、2℃未満に抑えることが目標です。温室効果ガス排出量を、2℃を十分下回る水準では毎年2.5%以上削減、1.5度未満に抑える水準では毎年4.2%以上削減することを求めています。5年~15年を目標に設定します。2024年1月1日以降に申請する
・従業員500人未満
・非子会社・独立系企業中小企業
の中小企業に対し、SBT事務局は大企業より条件が緩和された「中小企業版SBT認証」を設定しました。

SBT認証

▶SBTのウェブサイトはこちら

 株式会社三和では、2023年度より活動をスタートし、2024年7月に中小企業版のSBT認証を取得いたしました。中小企業版のSBT認証では、基準年を2018年~2023年から選択し、目標年を2030年とし、Scope1および、Scope2の温室効果ガス、弊社ではCO2排出量を4.2%削減(-1.5℃相当)することを目標としています。Scope3に対しては、中小企業版では、算定までで、削減の基準はありません。削減活動は、ホームページなどで進捗状況について、1年に1回活動報告が必要で、その際には、
・Scope1, 2の公表
・GHG削減の数値目標
・GHG削減の進捗状況
・その他
の内容を盛り込む必要があります。

  •  CDP LogoCDP:英国の慈善団体が管理する非政府組織(NGO)であり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営しています。西暦2000年発足当時は、Carbon Disclosure Projectの略でしたが、現在はカーボン(炭素)以外の水や森林の環境対策も扱うようになり、CDPが正式名称です。企業や自治体に対して気候変動に関する情報を開示するよう促し、環境への影響を軽減するためのアクションを推進します。温室効果ガスの排出量やリスクの管理に関するデータを収集・公開することで、持続可能なビジネス慣行の普及を目指しています。
  • UNGC LogoUNGC:国連グローバル・コンパクト(United Nation Global Compact)のことで、国連と民間(企業・団体)が手を結び、健全なグローバル社会を築くための世界最大のサステナビリティイニシアチブ(持続可能性に関する課題に取り組むための構想や取り組み)です。人権、労働基準、環境、腐敗防止に関する10の原則を基に、企業が持続可能な開発を推進するためのフレームワークを提供しています。UNGCの活動を通じて、企業は社会に対する責任を果たし、持続可能な未来の実現に寄与することが期待されています。
  • WRI LogoWRI:世界資源研究所(World Resources Institute)のことで、環境問題に関する研究と政策提言を行う国際的な非営利団体です。1992年にアメリカのワシントンD.C.に設立され、持続可能な開発を促進することを目的としています。WRIは、科学的なデータと分析に基づいて、環境と社会に関する問題を解決するための戦略を提案し、政策形成や実施をサポートします。彼らの活動は、地球環境の保護と持続可能な社会の構築に寄与しています。
  • WWF Logo1WWF:世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature)のことで、1961年に設立された地球環境の保護と持続可能な未来の実現に向けた国際的な環境保護団体(非営利団体)です。本部はスイスのジュネーブにあり、世界中に支部を持っています。生物多様性の保護、気候変動への対策、持続可能な資源の管理を中心に、さまざまな活動を展開しています。彼らの取り組みは、環境問題に対する意識を高め、持続可能な社会の実現に寄与しています。
  • WMB LogoWMB:We Mean Businessの略で、企業が気候変動対策を実施し、持続可能な経済への移行を推進するための国際的な連合体(プラットフォーム)です。2015年に設立され、企業、投資家、NGO、政府などの多様なステークホルダーが協力して、具体的なイニシアチブの提供、情報共有、政策提言、透明性の確保などを通じて、企業の気候変動への取り組みを強化し、持続可能な未来の実現を目指しています。

※Scope1, 2, 3など、GHGの排出に係る基本的な内容は、環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームのページ等をご参照ください。 ▶グリーン・バリューチェーンプラットフォームのページはこちら

実際の活動紹介

SBT認証を取得し、
  カーボンニュートラリティーに向けてスタート!!

SBTミーティング

 2023年度より、中小機構のハンズオン支援を利用してカーボンニュートラル活動を開始しました。まずプロジェクトチームを結成し、カーボンニュートラルやSBT認証に対する理解から始まり、GHG(CO2)の算定環境の構築から取り組みました。
 CO2の算定は、初めはラフな計算で全体の値を把握し、徐々に精度を高める方針で進めています。精度を上げるためのプロセスとしては、価格ベースから重量ベースへ、2次データから1次データへと段階的に移行していきます。これは、社内に蓄積されたデータがそもそもCO2算定を前提に構成されていないためです。また、弊社のサプライヤー各社もCO2データの提供体制が整っていません。2024年時点のビジネス環境では、完全にトレーサブルなデータを一貫して収集するのはほぼ不可能といえます。

 そのため、当初から高い算定精度を目指しても、実現するための環境が整っていないのが現状です。信頼性のあるデータが迅速に得られる社会環境の整備が望まれますし、そういった社会に向けての取り組みがきっと地球全体のGHGの削減につながることでしょう。まずは、継続的に算定できる組織・仕組みを構築するため、社内に「カーボンニュートラル委員会」を発足させました。プロジェクトミーティングにおいて基準年を2019年に設定し、その基準年のCO2排出量を算定しました。また、ハンズオン期間中に「中小企業版SBT認証」の承認を受けました。

基準年である2019年のGHGデータ

 スタートアッププロジェクトで算定した2019年のGHG排出量算定結果です。これを基準データとして今後、削減に取り組んでいきます。まずは、2030年に向けた取り組みです。

ロードマップ
2019年基準年データScope1, 2
2019年基準年データScope3

 算定の結果、Scope3のCat1およびCat11が大半を占めていることが分かりました。Scope3は、算定のみとなりますが、今後は算定精度の向上に努めていきたいと考えております。
 CO2の排出量の算定をまとめると、基準年の2019年の算定結果は、下表のようになりました。

表. 2019年CO2排出量の概要
Scope1 Scope2 Scope3
CO2排出量[t] 24.42 61.00 2139.7
Scope1+2 / Scope3 85.42 2139.7
合計[t] 2225.12

※Scope3のCat1データに関しては、 産業連関表に基づいて換算し、そのうち板金等の図面に基づいて製作する製作資材は、見積時の体積データより重量を計算し、その重量よりCO2排出量を算定しています。
 また、Cat11は、製品によるものであり、社内でシナリオを作成し、そのシナリオに基づいた計算式て算定しています。

CFP(カーボンフットプリント)試算

 CFP(カーボンフットプリント)とは、ある製品が「ゆりかごから墓場まで」、つまり原材料を調達し製造されるところから、使用して寿命を全うし、廃棄されるまでのGHG(CO2)排出量をその製品に明示することです。2007年にイギリスのWalker社が、ポテトチップスのパッケージに初めてラベルとして表示したとされています。その後、フランス、韓国、タイ、台湾、そして日本へと急速に広まりました。
 BtoC向けに販売される製品では、環境価値をアピールするためにCFPのラベルを表示しますが、CFP算定値の認定やラベルの継続利用には費用がかかります。一方で、BtoBの工業製品などの場合、CFP算定値が分かることで納品先がScope3の算定を行えるため、ラベル表示の必要性が特に求められていないという考え方が広がりつつあります。その場合、企業の自主的な活動によりCFPを算定し、その値が正しいことを工業会などのレビューを受けて第三者に認めてもらうことで、やり取りを行うのが適切と考えられています。

CFPブロワ

 さて、スタートアッププロジェクトでは、弊社の主要製品の一つである「送風機」のCFP試算を実施しましたので、ご紹介いたします。算定にあたっては、特定の型式の送風機をピックアップし、そのライフサイクルフローを定義し、各段階で発生するCO2排出量を積算しました。また、金額ベースでのCO2排出量も併せて算定し、お客様が見込む推定値とみなすことができます。その結果、重量換算積算ベースの値は、金額ベースの約1/5に算定されました。このことは、お客様のScope3算定に有利に働くことにつながります。
 ただし、現状の課題として、CFP算定結果について第三者による検証が行われていない点が挙げられます。また、製品ごとの明確な算定基準が存在するケースはまだ少なく、CFP算定は各社の裁量に委ねられている部分が多く残っています。これにより、他社製品との比較は現状では意味をなさず、統一基準外での比較は原則禁止されています。信頼性を維持するためには、統一基準の有無にかかわらず、内部検証や第三者検証が必要です。
 今回の結果は、参考として紹介させていただきましたが、算定に当たっては、まだまだ定式化されていない部分もあり、すべての製品出荷時にタイムリーにCFP値をご用意できる状況はこれからとなります。また、制御盤のCFPの試算も実施いたしました。CFP値にご関心があり、提供ご希望の際には、個別にお問合せいただけますようお願い申し上げます。

むすびに

2030年の目標

 ここまでで、2023年から2024年にかけて構築したカーボンニュートラルのスタートアッププロジェクトについてご紹介いたしました。SBTの取り組み母体がWMBということもあり、脱炭素活動はビジネスの上に成り立っていると捉えることができます。ビジネスに基づく強みとして、活動のスピードが速く、資金によってさらに加速できるという利点があります。逆に言えば、それだけ急ぐべき課題である、脱炭素社会への取り組みは産業界の責任であるとも言えるでしょう。

 株式会社三和としては、まずはロードマップに従い、身近な活動からスタートしていきます。日常生活や経済活動において避けられないGHG排出に対しては、最終的にカーボンオフセットの施策を講じる予定です。ものづくり企業である三和にとっては、GHG排出量削減活動において、工場の改善や省エネ・創エネ化・省力化といった実益のある取り組みとシナジーを生み出すことが重要と考えています。また、弊社が提供する製品のCFPをお客様のScope3の算定に利用していただくことで、脱炭素とビジネスが両輪となり、加速することを切に願っております。

Clear Earth

 2030年には、炭素生産性(炭素生産性 = 生産量 / CO2排出量)を270%に向上させることを目標としています。今後、各年度の活動報告については、本ページにて随時掲載する予定です。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。